40代から始める、親と自分のための相続準備:「争族」を未然に防ぐロードマップ
「相続」と聞くと、まだ遠い未来の話、あるいは富裕層だけに関係する話だと思っていませんか?
もしあなたが40代であれば、それは大きな誤解かもしれません。今、まさにあなたには「親の相続」に備える重要な役割と、「自分の相続」を整える絶好のチャンスが訪れています。
40代は、ご両親がまだお元気なうちに話し合いができる最後のタイミングかもしれません。そして、ご自身のキャリアや子育てが落ち着き、将来を見通せるようになる時期でもあります。
この記事では、40代の私たちが今すぐ始めるべき相続の準備について、具体的なステップと心構えを、実例を交えながら温かい言葉でお伝えします。
40代が「相続」を考えるべき理由
なぜ、今このタイミングで相続を考え始めるべきなのでしょうか?
それは、相続準備が「財産分けの手続き」ではなく、「残された家族への愛と配慮」、そして「未来の安心を買う行為」だからです。
1. 「争族」の予防効果が最も高い
相続財産の大小にかかわらず、家族間のトラブルは起こり得ます。これが世に言う「争族(あらそく)」です。特に揉めやすいのは、以下のケースです。
- 不動産(実家)しかない場合: 「長男が住むから」と言っても、他の兄弟から「法定相続分のお金が欲しい」と言われ、実家を売却せざるを得なくなることがあります。
- 介護の貢献度: 親の介護を献身的に担った人がいるのに、遠方で暮らしていた兄弟と「平等に分ける」ことになり、不公平感が生まれる。
40代の私たちが動くことで、ご両親の意思を明確にし、兄弟姉妹と円満に話し合う機会を作ることができます。
2. 親の「資産凍結」を防ぐ
ご両親が認知症などで判断能力を失うと、その財産は「凍結」されてしまいます。たとえ子どもであっても、勝手に親の預金を引き出すことはできません。
この状態になると、介護や施設入居のためのお金があっても、「後見制度」を利用するなどの複雑な手続きが必要になります。親が元気なうちに、資産の状況を把握し、対策(家族信託や任意後見制度の検討など)を講じることが、家族全員の安心につながります。
3. 「デジタル遺産」への備え
私たち40代は、銀行口座、証券、仮想通貨、サブスクリプション、SNSアカウントなど、デジタル上の資産や情報を多く持っています。これらは、残された家族には存在すら知られず、永遠に「迷子」になる可能性があります。ご自身の財産を整理し、エンディングノートなどでリスト化しておくのは、あなたの世代に必須の準備です。
ステップ1:最も可能性の高い「親の相続」に備える
40代の相続準備は、まずはご両親との対話から始まります。
1. 親子の対話:「エンディングノート」のすすめ
相続の話を切り出すのは気が引ける、という方も多いでしょう。そこで、「終活」や「エンディングノート」を話題にしてみましょう。
「お父さん、お母さん、もしもの時、私たちが困らないように、今のうちに元気な証拠として一緒に情報を整理しておかない?」
この一言で、話は驚くほどスムーズに進むことがあります。
確認すべきことと実例
- 財産目録:「どこに、何が、いくらあるか」。特にネット銀行や昔のままの口座など、存在を知らない金融資産は手続きが煩雑になります。
- マイナスの財産: 借金、連帯保証、住宅ローンなど。もしプラスよりマイナスが多ければ、「相続放棄」を検討する必要があり、期限(3ヶ月)が迫ります。
- 不動産の希望: 実家を「誰が住むか」「売却するか」「賃貸に出すか」を親の希望も含めて明確に。これが争族の最大の種です。
- お墓・葬儀の希望: 宗教や宗派、葬儀の規模、希望する埋葬方法などを知っておくと、いざという時、慌てずに済みます。
2. 実例:実家(不動産)の「負の遺産化」を防ぐ
地方にある実家が、相続発生後に誰も住まなくなり、「負の遺産」になってしまうケースが多発しています。
- 誰も住まない空き家でも、固定資産税はかかり続けます。
- 老朽化が進むと、管理の手間と費用がかかります。
- 2024年4月から相続登記が義務化され、放置すると過料(罰則)の対象となるリスクもあります。
対策: ご両親が元気なうちに、「将来、実家をどうしたいか」を話し合いましょう。売却の可能性があるなら、価値が下がる前に手を打つ準備も必要です。

3. 遺言書の作成を「お願い」する
円満な相続の鍵は、ご両親に「遺言書」を書いてもらうことです。特に不動産など、分けにくい財産がある場合は必須と言えます。
- 遺言書のメリット: ご両親の「最後の意思」が尊重され、相続人全員の合意(遺産分割協議)なしに財産を分けられるため、家族間の揉め事を防げます。
- おすすめは「公正証書遺言」: 公証役場で公証人が作成するため、方式の不備で無効になるリスクがなく、原本も役場で保管されるため安心です。
ステップ2:自分の未来のための「相続準備」
「自分にはまだ大した財産がないから」と思うかもしれませんが、ご自身の準備は「家族が困らないようにするための保険」だと考えてください。
1. デジタル終活と財産目録の作成
ご自身の財産目録を一度作ってみましょう。通帳のコピーだけでなく、デジタル情報に焦点を当ててください。
財産目録に記載すべき情報
- 銀行・証券口座: 銀行名、支店名、口座の種類(ネット銀行含む)、ID・パスワードの保管場所
- 保険: 生命保険、医療保険の会社名、証券番号、受取人の確認
- デジタル資産: 仮想通貨、FX口座、サブスクリプション(Netflix、動画サービスなど)の契約状況、解約方法
- 借金・ローン: 住宅ローン、奨学金、クレジットカードの残高など
この情報を一冊のエンディングノートにまとめ、信頼できる人(配偶者など)に保管場所を伝えておきましょう。

2. 生命保険を「万が一の生活費」として活用する
40代で小さな子どもがいる家庭の場合、死亡保険金が非常に重要な役割を果たします。
- 生命保険のメリット: 死亡保険金は、原則として遺産分割の対象にならず、受取人が保険会社に請求すれば、遺産分割協議を待たずに単独で受け取れます。葬儀費用や当面の生活費として、迅速に資金を確保できます。
- 受取人の確認: 受取人が「法定相続人」や「配偶者」など、意図した人になっているか、今一度確認しておきましょう。

3. 遺言書:残された家族をシンプルにするツール
「まだ早い」と思いがちですが、遺言書は「家族の複雑な手続きをシンプルにする魔法のツール」です。
特に、未成年の子どもがいる場合は検討する価値があります。
- 遺言がない場合: 配偶者と子どもが法定相続人となり、子どもが成人するまで「特別代理人」を選任するなど、煩雑な手続きが必要になることがあります。
- 遺言がある場合: 「妻に全財産を相続させる」と遺言書に残しておけば、妻一人でスムーズに手続きを進めることができます。
ステップ3:「争族」を避けるための心構え
相続問題で最も重要なのは、「お金」ではなく「感情」です。兄弟姉妹の仲が良くても、数百万円の差で感情的な対立が生まれることは珍しくありません。
1. 兄弟姉妹間で「情報格差」をなくす
親の財産状況や、親が遺言書を作成したかどうかの情報を兄弟姉妹間でオープンにしましょう。
- 特定の一人だけが親の財産を管理している状態(一人管理)は、他の兄弟から「隠しているのではないか」「不正をしているのではないか」という不信感を生みます。
- 全員で情報を共有し、「親の希望通りに円満に手続きを進めよう」という共通認識を持つことが、トラブル予防の最大の薬となります。

2. 「特別受益」と「寄与分」を巡る感情の整理
「特別受益」とは、特定の相続人が親から生前に多額の贈与(住宅購入資金、留学費用など)を受けていた場合、公平性を保つためにその分を相続財産に持ち戻して計算することです。
「寄与分」とは、親の介護や事業の手伝いなどで、特定の相続人が親の財産維持・増加に貢献した場合、その分を優遇することです。
これらは感情の対立に直結します。ご両親が元気なうちに「これは特別に援助した分ではない」「長女には介護を頑張ってもらった」などの意思を遺言書に明確に残してもらうことで、後の兄弟間の対立を防げます。
3. 早めの専門家相談を「投資」と捉える
相続が「争族」に発展した場合、解決には多額の時間と弁護士費用がかかります。
「財産状況が複雑だ」「相続人同士の仲が悪い」「不動産の分け方が難しい」といった予兆を感じたら、早めに税理士や司法書士、弁護士といった専門家に相談しましょう。
専門家への相談費用は、将来の「争族回避」という大きな安心を買うための「賢い投資」だと考えれば、決して高くないはずです。
まとめ
40代で始める相続準備は、単なる事務的な手続きではありません。それは、ご両親の安心を支え、ご自身の家族を守り、そして何より「家族の絆」を守るための優しい行動です。
今すぐできる準備は、お金を動かすことではなく、「情報を整理し、対話をすること」です。
ぜひ、この記事をきっかけに、週末の帰省や家族の団らんの場で、温かい気持ちで相続の話を始めてみてください。その一歩が、きっとご家族の未来を明るく照らすはずです。
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