勤労学生控除の概要
一つまえの記事にも記載しましたが、「勤労学生控除」をとりあげました。
実は私も知らない制度だったので、勉強も兼ねて発信させていただきました。親の条件などで何がお得なのかは変わってきますが、制度自体知らないと選択肢に入れることができません。
まずは知っていただくところからでよいかと思い記事にしました。
勤労学生控除を受けるための要件
勤労学生控除は、働いている学生全員が受けられるものではなく、一定の要件を満たす必要があります。具体的には、その年の12月31日時点で次の3つの要件をすべて満たす人が勤労学生控除の対象者となります。
勤労学生控除の対象となる3つの要件
- 給与所得などの勤労によって得た所得があること
- 1年間の合計所得金額が75万円以下で、かつ、給与所得などの勤労によって得た所得以外の所得が10万円以下であること
- 特定の学校の学生、生徒であること
以下で、それぞれの要件について詳しく見ていきましょう。
要件1. 給与所得などの勤労によって得た所得があること
勤労学生控除は、給与所得などの勤労によって所得を得ている人が対象です。定期的に勤務している場合だけでなく、単発・短期のバイトとして勤務している場合も含まれます。
要件2. 年間の合計所得金額75万円以下で、かつ、給与所得などの勤労によって得た所得以外の所得が10万円以下であること
勤労学生控除を受けるためには、1年間の合計所得金額が75万円以下である必要があります。1年間の合計所得金額とは、その年の1月1日から12月31日までの1年間にバイトなどで得た給与収入から、給与所得控除55万円(給与収入金額が162万5,000円以下の場合)を差し引いた金額です。つまり、1年間で稼いだ収入が130万円以内であれば、勤労学生控除が受けられますが、130万円を超えると受けられなくなります。
また、バイト以外でも所得を得ている人は、その所得額を10万円以下に収めなくてはなりません。例えば、不動産所得や株式投資による収益、ネットオークションやアフィリエイトから得られた収益、委託契約による原稿料などの成果報酬などがそれに該当します。
要件3. 特定の学校の学生、生徒であること
特定の学校とは、次のいずれかの条件を満たす学校のことです。
特定の学校に該当するもの
- 学校教育法に規定する小学校、中学校、高校、大学、高等専門学校など
- 国、地方公共団体、学校法人などが設置する、専修学校や一定の課程を履修させる各種学校
- 一定の課程を履修させる職業訓練校
高校や大学だけでなく、専修学校、各種学校、職業訓練校に通う学生も対象となる場合があります。専修学校、各種学校、職業訓練校に通っている人で、自分が通っている学校が「特定の学校」に該当するか不明の場合は、学校の窓口に問い合わせて確認すると良いでしょう。
参考:
勤労学生控除でいくらお得になる?
勤労学生控除を受けると実際どのくらいお得になるのでしょうか。今回は、年間のバイト代が130万円の大学生を想定し、控除がない場合とある場合で比較していきます。
勤労学生控除のメリット
勤労学生控除を受けることで、さまざまなメリットを得られます。主なメリットとしては、次の3点が挙げられます。
メリット1. 非課税となる収入の金額が増えて、税負担が発生しにくくなる
通常、年収103万円を超えると所得税が課税されます。学生であっても、バイトで得た年間の収入が103万円を超えれば所得税を納めなくてはなりません。
しかし、勤労学生控除が適用されると非課税となる収入の金額の上限は、年間130万円まで拡大されます。税負担が発生しにくくなることは、勤労学生控除の大きなメリットといえるでしょう。
メリット2. 税負担を軽減し、手取り額を増やせる
非課税となる収入の金額が103万円から130万円に拡大されることで、税負担が抑えられて結果的に手取り額を増やせるのもメリットのひとつです。
例えば月に88,000円以上の収入があった場合には、年収103万円に関わらず、前もって所得税が給与から天引きされます。もし年収が130万円以内であれば、所定の手続きによって天引きされた所得税を還付金として受け取ることができます。
メリット3. 所得税だけでなく住民税も軽減される
勤労学生控除が受けられると、所得税だけでなく住民税の軽減も期待できます。ただし、住民税が非課税となる基準は、所得税とは異なります。
具体的な基準は地域によって差がありますが、例えば東京都で同一生計配偶者及び扶養親族がいない場合であれば、年収126万円以内は住民税が非課税となります(非課税枠45万円+給与所得控除55万円+住民税の勤労学生控除26万円)。もし年収が127万円だった場合は、勤労学生控除を受けていても、学生本人に住民税が課税されることがある点に注意が必要です。
勤労学生控除なし
勤労学生控除を受けない場合、所得税は103万を超えた分から、住民税の均等割りは95万円前後から(自治体によって変わる場合もある)、所得割は100万円を超えた分から引かれていきます。
勤労学生控除を受けない場合の各税金の計算方法は以下のとおりです。
所得税:(年収-所得税の基礎控除48万円+給与所得控除55万円)×5%
住民税(所得割):{年収-(住民税の基礎控除43万円+給与所得控除55万円)}×10%
住民税(均等割):5000円(2024年時点)
例:収入が年間130万円だった場合(勤労学生控除なし)
所得税:(130万円-103万円)×5%=13,500円
住民税(所得割):{130万円-(43万円+55万円)}×10%=32,000円
住民税(均等割):5000円(2024年時点)
税額合計:13,500円+32,000+5000円=50,500円
勤労学生控除あり
勤労学生控除を受けた場合、所得が130万なので所得税はかからず、住民税だけが課税対象となります。
勤労学生控除を受けた場合の各税金の計算方法は以下のとおりです。
住民税(所得割):{年収-(住民税基礎控除43万円+給与所得控除55万円+勤労学生控除26万円)}×10%
住民税(均等割):5000円(2024年時点)
例:収入が年間130万円だった場合(勤労学生控除あり)
所得税:0円
住民税(所得割):所得{130万円-(43万円+55万円+26万円)}×10%=6000円
住民税(均等割):5000円(2024年時点)
税額合計:6000円+5000円=11,000円
※源泉徴収で所得税を納める場合2037年12月31日まで徴収される復興特別所得税徴収、住民税の調整控除金は今回考慮せず計算しています。また、未婚の未成年は合計所得金額が135万円以下(給与のみの場合は給与収入が204万円以下)であれば、非課税となります。
勤労学生控除のデメリット
勤労学生控除は税金が安くなるといったメリットがある一方で、いくつかのデメリットもあります。具体的には、以下の2点に注意が必要です。
デメリット1. 親の税負担が増える可能性がある
勤労学生控除の対象になると、バイトをしている学生自身は年収130万円まで所得税が非課税となります。しかし、バイトをする学生の扶養者である親は、子供の収入が103万円を超えると扶養控除の対象外となり、親の納税額が増えてしまう可能性があります。
扶養控除とは、家族を養っている人の税負担を軽減するための制度です。勤労学生控除が利用できても、結果的に世帯全体の手取り額が減ってしまうという状況にならないよう気をつけましょう。
扶養控除については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
デメリット2. 各種手続きを行う手間がかかる
勤労学生控除は、自動的に適用されるわけではありません。控除を受けるには、年末調整または確定申告を行い、勤労学生控除に関する事項を記載した書類を提出する必要があります。また、手続きの期間は決まっており、期間内に申告しなければ勤労学生控除を受けられない場合もあるので、時間に余裕を持って進めることが大切です。
勤労学生控除の申告方法
勤労学生控除の手続き方法としては、年末調整と確定申告の2種類あります。以下では、それぞれの申告方法について解説します。
年末調整での勤労学生控除の申告方法
年内にバイトを変えず、収入源がひとつのバイト先のみであれば、基本的にはそのバイト先で年末調整をしてもらうことができます。年末調整には「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記載が必要ですが、勤労学生控除を受ける人は「主たる給与から控除を受ける」の欄にある「勤労学生」にチェックを入れ、所得内容や学校名などを記入します。
なお、その際には、学生証など勤労学⽣だと判別できる証明書のコピーの添付が必要です。また、専修学校や各種学校の学生、職業訓練法⼈の訓練生の場合は、学校長等の証明書を添付します。これらの必要書類をバイト先に提出すれば、年末調整による勤労学生控除の申告は完了です。
詳しい書き方は、下記の国税庁のWEBサイトを確認し、「障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生の記入」箇所の内容を参考にしてみてください。
参考:
確定申告での勤労学生控除の申告方法
バイトを掛け持ちしていたり、バイト先で年末調整をしてもらえなかったり、年末調整で勤労学生控除を申告し忘れたりした場合は、自分で税務署に確定申告をする必要があります。その際に、勤労学生控除を受ける手続きも一緒に行いましょう。年末調整と同様に、専修学校、各種学校、職業訓練校に通っている人は、学校が発行した証明書を添付または提示するのを忘れないようにしてください。
確定申告書の書き方
確定申告書を作成する際は、第一表にある「所得から差し引かれる金額」のうち、「勤労学生、障害者控除」の欄に勤労学生控除として27万円を記入します。なお、e-Taxを利用する場合は、金額が自動的に入力されます。
続いて、第二表にある「本人に関する事項」のうち「勤労学生」に◯を記入します。専修学校、各種学校、職業訓練校に通っている人のうち、年末調整で勤労学生控除を受けていない場合は、その下にある「年調以外かつ専修学校等」にチェック(✓)をつけましょう。
詳しい書き方は、下記の国税庁のWEBサイトを確認し、内容を参考にしてください。
参考:
国税庁「勤労学生控除 – 手順3 所得から差し引かれる金額(所得控除)を計算する」
勤労学生控除の気になる疑問
最後に、勤労学生控除に対するよくある疑問についてまとめました。申告前にぜひ確認してみてください。
在学証明書類はどこで入手できる?
勤労学生控除の申告で必要となる在学証明書は、それぞれの学校の窓口で入手が可能です。年末調整は11月から年末に行い、確定申告は収入のあった翌年の2月16日から3月15日の間に申告を行うため、期限を過ぎないよう余裕をもって学校に申請する必要があります。
動画配信の収益やデリバリー代行サービスなども勤労学生控除は受けられる?
YouTubeなどの動画配信の収益やUber Eatsなどのデリバリー代行サービスは、確定申告などで給与所得ではなく雑所得に区分され、どちらも勤労学生控除を受けることができます。給与所得には該当しないため、給与所得控除は受けられません。
確定申告を忘れてしまったらどうすべき?
確定申告が期限内にできなかった場合でも申告は可能です。また、適用漏れがあった年が5年以内であれば、さかのぼって申告もでき、所得税の還付(払い戻し)を受けられます。
しかし、期限内に申告しなければ住民税額には反映されず一旦多く税金を払う必要が出てしまうため、確定申告の期限内に提出するよう心掛けるのが大切です。
まとめ
勤労学生控除は、働く学生の税負担を軽減するためにある制度です。勤労学生控除を受けると、所得税が課税されない金額を103万円から130万円まで広げることができます。ただし、控除を受けるにはいくつかの要件を満たしたうえで各種手続きをする必要があります。
また、自分が勤労学生控除を受けることで、親が扶養控除を受けられなくなり、親の税負担が増えてしまう可能性もあるので、申告前に家族と話し合っておくのが大切です。メリットだけでなく注意点もきちんと把握して、賢く制度を活用していきましょう。
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