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年収34万円アップ❓103万円→178万円の壁に拡大/税金の負担は減らせるのか。知っておくべき控除金額の分岐点。

お金

いま世間では103万円の壁を撤廃して、178万円まで拡充しようとする動きがあります。

国民民主党が「30年前の最低賃金と今の最低賃金を比べたとき、約1.7倍になっているので、基礎控除もそれに応じて上げるべき」といっているのです。

私も金融の勉強をするまではインフレというものの意味をしっかりと理解しておりませんでした。物価が上昇しているのに、控除額が変わらなかったら恩恵が少なくなってしまいます。

最近のニュースで、最低賃金が上がってよかったのですが、アルバイト学生がインタビューで「最低賃金があがった影響で今まで通り働いたら103万円をすぐに超えてしまう」といっておりました。確かにその通りですよね。最低賃金上がってよかったな~と他人事のように眺めておりましたが、103万円の壁のことをすっかり忘れてました。

では実際178万円までか拡大されたらいくらお得になるのでしょうか?

パート配偶者のケース(現状)

まず最初に、現状を見てみましょう。

ここでは年収500万円から800万円の会社員の夫と、パートで働いているその妻、というケースを考えます。地域としては都市部を前提(※)にしています。

筆者註※住民税の課税最低限が市区町村によって異なるため

今回、年収に対し、「家計全体でみたときに、実質プラスになっている額」を「手取り」として算出してみました。

※プレジデントオンラインより引用

妻のパートの年収が100万円なら、税金や社会保険はかかりません。この場合、手取りが111万円、手取り率としては111%と計算しています。

「手取り額」が年収より多いのは、夫の収入から差し引かれる配偶者控除を家族全体の「収入」としてカウントしているためです。図2を見ていただくと、実は103万円の壁はそんなに引かれることがありません。問題は次の106万円の壁です。

手取りが一気に減る「106万円の壁」

パートによる年収が106万円になると、パート先の従業員が50人を超えている場合は、夫の社会保険の扶養から外れ、勤め先の社会保険に強制加入になります。それにより手取りが100万円に減ってしまいます。このときの手取り率が94%です。

つまり、勤め先の社会保険への強制加入により、手取り率にして一気に16%ぐらいダウンしてしまうわけです。これが106万円の壁です。

もちろん、メリットもあります。社会保険加入で手取り額が減る一方、将来の年金は増え、傷病手当金や障害厚生年金をもらえる資格もできます。

ただ、手取り額が1年で15万8000円ほど減るのに対し、将来もらえる年金は年間たったの5788円です。払った年金の元を取るには28年間かかる計算になります。

当然「これってどうなんだろう?」と思う人が多く、みなさん106万円の壁を超えないよう、仕事を休んで調整しているのが現実です。

130万円稼いでも手取りは103万円と変わらない

パートの年収が130万円まで増えると、パート先の従業員数には関係なく、夫の社会保険から外れることになります。

妻からすれば、パート先の社内保険に加入させてもらうか、自分自身で国民健康保険と国民年金に入るかという大きな問題が出てきます。

今回のシミュレーションでは、パート先の社会保険に加入できたことにしているのですが、その場合でも年収130万円に対して手取りは117万円、手取り率は90%まで下がります。

年収が104万円→手取り114万円

年収が130万円→手取り117万円

がんばって働いても手取りはあまり変わらないのです。

実はその先も大変で、年収150万円になると、それ以降は夫の配偶者控除がどんどん減っていきます。

年収150万円ちょうどの時はまだ配偶者控除は減っていないのですが、それでも手取りが131万円ということで、手取り率は87%に低下します。

178万円まで働くと、手取りが145万円、手取り率81%にまで落ちてしまいます。年収が上がった分、配偶者特別控除が極端に少なくなるため、手取り率が一気に下がるのです。

このようなしくみでは、パートの年収を106万円以下に納めるか、逆に年収200万円以上は少なくとも働かないと、損をしているように感じるでしょう。これが現行制度の問題点です。

上限ギリギリではたらくと家計に16万円プラス

では「103万円の壁」が「178万円の壁」になった場合、パート主婦の年収と手取りの関係はどう変わるのでしょうか。

※プレジデントオンラインより引用

基礎控除等が178万円まで引き上げられた場合、年収178万円でも、パート収入にかかる税金は0になります。

手取りが当初の145万円から161万円と、16万円増え、手取り率も10%増えて、91%まで高まってきます。

手取り額のカーブがこのような形になった場合、みなさん今度は106万円の、手取り率110%から94%に大きく下がる部分だけを避けようと思うはずなので、106万円以下に抑えるか、もしくは150万円以上働いて、178万までに抑えるという方が増えると思われます。

パートの二極化という感じでしょうか。106万円の壁は残り続けますが、「働くほど損」と感じる年収の幅が緩和されそうです。

最低賃金がアップしても問題ない

現状、最低賃金1054円(全国平均)で週20時間働いたとすると、月の収入は9万円ちょっとになります(※)。そうなると社会保険強制加入の月8万8000円を超えてしまうんですね。

※1カ月=4.3週間として計算しています

そうなると手取り率が大きく下がるので、なんとか働く時間を週20時間未満におさえるのが今のパートさんの大勢です。

※プレジデントオンラインより引用

ここで基礎控除等が178万円になったとすると、今の最低賃金で30時間働いても月13万5000円ちょっと、年間に直しても163万円ほどなので、まだ扶養の範囲内に収まります。多少残業しても大丈夫です。

実は今、最低賃金を1500円に引き上げようという流れがありますが、そうなったとしても週20時間働いて月に12万9000円、年間で154万8000円なので、まだ扶養の範囲内ということになります。

年収の壁が178万円になると、週3ないし週4でパートで働く方にとっては、そこまで壁を気にして働き控えしなくてもよくなるでしょう。「収入を増やして社会保険に入っても、手取り率はそれほど悪くならない」となれば、みなさん社会保険にも入ると思うんです。

厚生労働省が今、「全ての労働者を社会保険に加入させよう」という目標を推進していますが、年収の壁が178万円になることで、それが達成される可能性も高まるでしょう。年金財政も好転するのではないでしょうか。

そう考えると、少なくとも厚生労働省については、この「178万円の壁」案を推したほうが、省の方針と整合性が取れるように感じます。

親の扶養にある成人アルバイトのケース

成人の扶養家族ケース(現状)

続いて、年収が500万円から800万円の会社員の親と、23歳から39歳でアルバイトをしている子供とのケースを見ていきましょう。

※プレジデントオンラインより引用

年収103万円を超えると、今度は所得税が発生してきます。さらに親の扶養控除が消滅してしまいますので、手取りが82万円、手取り率も79%まで下がってきます。

こういうことがあるので、みなさん年収を103万円以下におさめようとすることになります。ここで「年収103万円の壁」が出てくるわけです。

成人の子が扶養家族となっている場合、年収が106万円になると、勤め先の従業員数が50人以上の場合は社会保険に加入となるので、手取りが89万円、手取り率84%と、手取り率が少しアップします。

ここは配偶者の場合とは逆です。そうなるのは、アルバイト先の厚生年金に加入することで、それまで加入していた国民年金の保険料を払わなくて済むようになるからです。

年収130万円になると親の社会保険の扶養からも外れるので、バイト先の従業員数には関係なく国民健康保険か社会保険に加入する必要が出てきます。その場合、手取り107万円、手取り率82%となります。

年収178万円になると、手取り141万円、手取り率79%と、さらに手取り率が下がってきます。

収入を増やした方が得になる

ここで基準が178万円に引き上げられると、どう変化するでしょうか。

※プレジデントオンラインより引用

こうなると、「収入を106万円まで増やして社会保険に入った方がお得」という印象ですね。壁を引き上げることで、働き控えを減らす効果が期待できそうです。

学生バイトの「103万円の壁」は深刻

学生バイトのケース(現状)

最後に学生バイトの場合を考えてみます。親が年収800万円から500万円の会社員で、子供が20歳から22歳の学生という設定です。

※プレジデントオンラインより引用

年収100万円では手取りが99万円で、手取り率は99%です。学生といっても20歳以上なので、自分自身で国民年金の保険料約20万円を払っていると想定しています。ただ親の方に特定扶養控除という大きな控除がありますので、両方で相殺され、手取りはそんなに減らないという計算になります。

学生の場合、年収がいくら増えても雇用保険や社会保険の対象外なので、社会保険は原則無視してかまいません。

年収103万円では住民税が発生するので、手取り101万円、手取り率98%となります。

ここで「103万円の壁」が立ちふさがります。

年収103万円を超えると、親の特定扶養控除が消滅するので、年収104万円の場合、手取りは83万円、手取り率80%と激減してしまうのです。

年収130万円を超えると今度は所得税が発生します。130万円以下であれば勤労学生控除という制度があり、所得税はかからないのですが、それがなくなってしまうのです。さらに、親の扶養からも外れるため、自分自身で国民健康保険に入るしかありません。その結果、手取りが99万円、手取り率76%と、さらに減ってしまいます。

年収178万円あったとしても、手取りは135万円、手取り率76%。収入のだいたい4分の1は税金や保険料として払わなければいけないというのが、学生バイトの特徴です。

178万円稼ぐと手取りが34万円増える

※プレジデントオンラインから引用

年収178万円の場合も、税金は0、特定扶養控除も復活し、国民健康保険料も基礎控除が増えた分、金額も下がってくるので、手取り169万円、手取り率95%まで回復します。

基礎控除等が178万円まで引き上げられたら、年収がそこに達するまでは、税金や保険料の負担は重くならないことがわかります。つまり、103万円の壁も、130万円の壁もなくなるのです。

これはアルバイトをしている学生のみなさんには朗報でしょう。

非課税枠ギリギリまで手取り率9割が維持される

パートの主婦、扶養家族でアルバイトの子供、学生アルバイトと見てきました。壁が引き上がれば、どのケースでも178万円までは手取り率90%以上が確保されるので、非課税枠ギリギリまで働く人が多くなるのではないかと思われます。

財務省からは「基礎控除等を178万円まで引き上げると、国と地方で年間7.6兆円の減収になってしまう」という試算も発表されていますが、筆者の個人的な感想としては「10兆は超えないんだな」というのが正直なところです。定額減税は5兆円という話でしたが、その定額減税の結果、社会の仕組みが何か変わったかと考えると、ほとんど変わっていないですからね。

いずれにせよ、働く側にとってメリットが大きい政策であることには間違いありません。これまで働き控えしていた人たちが今よりたくさん働けるようになるわけですから、実現すれば人手不足も緩和され、社会が大きく変わりそうですね。

※このシミュレーションも、地域により年齢によって数字は変わってきます。その点はご了承ください。

今回、改めて国民民主党の政策パンフレットをじっくり読んだのですが、税金に関する公約が多いことが印象的でした。その中の一例ですが、「年少扶養控除復活」とか「暗号資産への申告分離課税導入(税率最大55%→20%)」といったものがあります。

国民民主党の発言力が強まることによって、これからの税制改正に大きな動きがあるかもしれません。何かわかりましたら、動画やプレジデントオンラインの記事で取り上げていきたいと考えています。

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